2014年10月30日木曜日

ウィルダネス・ファーストエイド講習会を終えて

ウィルダネス・ファーストエイド(野外救急救命法)講習会を受講してきました。
スリップストリームという会社が主催しているもので、今回は5日間50時間コースが神奈川県三浦半島にあるYMCAの施設で行われました。

屋外での講習風景

今回はJSCA日本セーフティカヌーイング協会の仲間が声を掛けてくださり、JSCAメンバーが十数人と、一般の方(水商売ではない方々)も含めて20人ほどが集まりました。

講師はユキエさん。
海外でのガイド活動のみならず、救急救命士の資格も有する実際に現場で動きまくっているプロ中のプロのお姉さんです。

パドルを添え木にして足を固定している

講義は室内と屋外と場所を選びません。
ホワイトボードを使って講義する場面もあれば、車座になって床で実演することもあり、また、YMCAの広い敷地を使って屋外で講習する場面もありました。

特に屋外での講習では「シナリオ・トレーニング」と呼ばれる実際の状況を想定したシミュレーション練習が多く取り入れられていました。
そのリアリティは想像以上で、練習と分かっていても焦ってしまい頭が真っ白になり、テンパることしばしばでした。

シナリオ・トレーニングのデモ

ウィルダネス・ファーストエイドで重要なことは、「すぐに救急車は来ないし、病院にも連れていけない」、「持っている装備だけで対処しなければならない」、「その場所はウィルダネス(野外)である」などです。
ここがいわゆる都市救命法との大きな違いで、AEDも当然期待できませんし、もしかすると携帯電話もつながらないかもしれません。
それだけではなく、救急車が来れる場所まで何時間も、何日も掛けて歩いたり漕いだりしなければならないかもしれません。

その場にある物を使って、自分の知識と経験をフル稼働させて、持てる技術をありったけつぎ込んで傷病者に向き合わなければならないのです。

バックパックと流木を利用した担架で傷病者を搬送する

僕たちはシーカヤック・インストラクターであり、ガイドです。僕たちは商売をしているのでプロフェッショナルです。
そのプロフェッショナルに求められるものは、けっして簡単なものではないでしょう。
僕たちにはお客さまの生命・身体に対して重い責任があります。
その責任を果たしてこそ、この仕事のやりがいがあります。

講義終了後、宿題と復習をする受講生たち

7:00朝食、7:30講義開始、12:00昼食、12:30講義開始、18:00講義終了。
その間5~10分の休憩が二回ほどあるだけでした。

宿題や復習に真面目に取り組んだのはいつ以来でしょうか?
全員が講義終了後に自習をしていました。
寝るのは毎晩24:00近かったです。
それでも時間が足らなく感じ、5日間は瞬く間に過ぎていきました。

復習は実技だけではなく、講義内容の振り返りも大事

最終日の朝一に筆記テストがあり、その後は夕方暗くなるまでシナリオ・トレーニングの時間となりました。

シナリオ・トレーニングは雨中実施されたこともあります。それが野外で起こりうるシチュエーションだからです。
そこでは救助する人だけではなく、救助される側である傷病者役の人にも学びと気付きがたくさんありました。
その学びと気付きが、次に自分が救助する側になった時に役立つのでした。

最終日の海岸でのシナリオ・トレーニング

最終日のシナリオ・トレーニングは装備も場所もまさに「現場」でした。
僕もライフジャケットを着、バックパックではなくIKEAバックにいつもツアーに持っていく道具を詰め込んで海岸を走り回りました。

僕は手が遅く、いつも実技では遅い方でした。
今回は講習ですが、それが現場となればその遅さが致命的になるかもしれません。大出血などは迅速な対処が大切になります。
逆に、遅くてもしっかりやるほうがいいこともあります。重度の低体温症の場合などがそうで、慌てるよりも万全の準備が重要になります。

シナリオ・トレーニングでは血のりなども使い、傷病者役は迫真の演技が求められる

こうして5日間の講習を終え、無事にテストにも合格することができました。
ですが全然終わった感じがしません。
これからだ、ここから勉強が始まるんだという気持ちです。


プロのインストラクターとして、ガイドとして、フィールドでの活動を続ける限り救命法と関わり続けなければいけません。
その責任と使命を胸に、カヤック技術の向上(と料理の腕前アップ)とともに精進していこうと強く思っています。


2014年10月18日土曜日

シーカヤック海旅塾・湯浅湾 再入塾!  ~後編~

翌朝。
雨は上がり青空が広がる気持ちのいい天気でした。
が、目の前の海は明らかにうねりが入り、白波が砕ける油断を許さないサーフゾーンになっていました。


朝ご飯は各自、のはずなのですが昨夜の残り物でみんな満腹してしまいました。

午前中の講義は「海からの視点」と「自由」についてです。
島国・日本に暮らす僕たちにとって、海からの視点の大切さとは。そしてそれを身に付けるためにはどうしたらいいのか。
自由とはなんなのか。
そうしたことを考えながらカヤックや太古から続く舟の文化伝統についても思索を深めていきます。

午後、お昼ご飯を食べてからみんなでどうするかを考えます。
すぐに出発するのか、どこへ行くのか。
天気、海況、そして上陸適地を考慮して総合的に判断しますが、そこにはどうしても勘のようなものも大きなウェイトを占めます。
それを「海気を読む」と表現するのが海旅塾塾生と瀬戸内カヤック横断隊隊士の間で最近流行っているのですが、この「海気」という言葉自体は辞書にも載っているので、本当はもっと普通に使っていたのかもしれません。

日本人はとてつもなく多くの事、大切な物を忘れてしまっているのかもしれません。


砕波帯(サーフゾーン)の離陸もまた、着陸するのと同じように危険があります。
波のタイミングを見計らって素早くカヤックに乗り込み、安全圏へとダッシュします。
海上へ出てしまうとゆるやかにうねりを感じる程度で危険はぐっと減ります。
そして着陸予定地を目指しました。
目指すは鷹島です。


鷹島は縄文土器も出土する古くから人々が暮らした島で、古代の瀬戸内、それだけではなく日本全国にまたがる海上交通の要衝だったと想像できる島です。
その鷹島にある浜はどんな時化でも安全に上陸できると言われ、僕たちもその浜に着陸しました。

ですが鷹島の浜は台風18号の影響で砂浜がほぼ消滅し、ほとんどゴロタ浜になっていました。
目の前の入り江にはたくさんの釣り筏が浮かび、日中は釣り客が絶えず、その送迎の船も出入りします。
なんとなく嫌だなあ、ということでこの浜を離れ、別の浜を目指しました。


今度の浜は前回僕も野営した浜です。
ところが浜に近付くとどうも様子が変わっています。
僕の目にはテントを張れるスペースもなさそうに見え、大きな波がどんどん入ってきていて明日の出発が危ぶまれるどころか今、着陸するのも危険なように感じました。

それでも慎重にみんなで着陸してみました。
大きな波には周期があり、そのタイミングさえ間違わなければ危険は少ないです。
やれやれ、と上陸してみたものの、浜を歩いてみてやはりここには野営できるだけのスペースはなく、満潮時には浜のほとんどが波に洗われてしまうことが分かりました。
仕方なく再び海へ。

すでに台風19号の影響が顕著に現れ、浜辺での野営は明日の出発にリスクを伴うと判断し、やむなく須原海岸のアイランドストリームのベースに戻ることにしました。
須原海岸に着陸したのは夕やみ迫る16時半でした。


ベースに戻ってきたからと言って海旅塾が終了したわけではありません。
ベースに戻るという判断もまた海旅塾で学ぶことであり、もちろん講義も続けられました。
海旅っぽさを継続するためにヘッドライト以外の電灯は使わないことにしました。シャワーも誰も浴びませんでした。
そうするだけで文明社会から離れて野営している気分になり、海旅が続いている実感がありました。
平田航師の豆乳鍋も格別で、ついつい食べ過ぎてしまいました。

この日の夜の講義は21時過ぎまで掛かり、その後も内田塾長の名調子は疲れも知らず夜は更けていくのでした。
この夜は各自テントで寝ました。


三日目の朝を迎えました。
道路の向こう、須原海岸に打ち寄せる波は確実に大きくなっていました。

午前中は講義。
海洋教育、そして環境教育は法律で促進することが定められています。
国の、国民の責務なのです。
そうした教育のツールとしてのシーカヤッキングのあり方。
シーカヤック屋さんを開業して二年目の僕には身の引き締まる思いがありました。


そして午後。
最後の講義は「振り返り」です。
三日間の総括として講義を振り返り、学んだことを確認します。

僕にとっては二回目となった海旅塾でしたが、同じ講義なはずなのに違うお話が多く、それなのに前回の理解をさらに深めることができ、いろんなことを確信する連続でした。

驚き、気づき、想い、学び、賜る。

海旅塾はシーカヤックの世界を海よりも深く、空よりも高くし、心も身体も解放するような気がします。
それは内田塾長と平田航師が海を旅して学んだこと、賜ったものを、海旅塾を通してより多くの人たちに知ってもらおうとする想いがあるからです。
賜ったものを次の世代に語り継ぐこと。この想いこそが海旅塾の魅力であり、これからの時代に生きる人たちに求められるのはないでしょうか。

今回も内田塾長、平田航師、ありがとうございました。
一緒に勉強したMちゃんも、ご飯の支度やコーヒーの準備など、細やかな配慮に感謝です。


そして。
次回のシーカヤック海旅塾は三重県南伊勢町で開講します。
場所は古和浦。
座佐の浜を初めとする国内屈指のシーカヤックの好フィールドで、塾長・内田正洋とサニーコーストカヤックス本橋が航師として講義します。
くわしくはホームページをご確認ください!




2014年10月15日水曜日

シーカヤック海旅塾・湯浅湾 再入塾! ~前編~

10月9日から開講されたシーカヤック海旅塾・湯浅湾に研修として参加させていただきました。

僕にとっては6月に引き続き二回目の海旅塾であり、また、来る11月には三重県南伊勢町のフィールドで海旅塾を開講することが決定したこともあり、事前研修でもあり、さらなる理解と確信を得るために紀伊半島の山越えをしてきたのでした。

折しも台風18号が本州太平洋岸をかすめ過ぎ去り、そして本年最強と謳われた台風19号が接近する狭間の期間でした。

国道166号線を一路西へ。和歌山市内だけ高速使ってスルー。伊勢を出てちょうど4時間の道のりは紀伊半島の大きさを実感する時間ですが、意外と近いのかなあとも思える時間でもあります。

今回の受講生は一名。今年の春シーカヤックを知りすっかりのめり込んでしまい、アイランドストリーム平田さんのところに通い詰めているMちゃん。
航師(講師)は内田正洋海旅塾塾長と平田航師のお二人。
そして私本橋の四人で今回の海旅塾は始まりました。


初日の午前中は三日間におよぶ海旅塾のだいたいのスケジュールの説明と、これから海旅(シーカヤックキャンプツーリング)をするフィールドである瀬戸内の海について、そしてシーカヤッキングについての講義。
いきなり濃い内容で、前回聞いたお話しだけではなく別のお話も多く、ぐいぐいと講義に引き込まれていきました。

続いて旅の準備、シーカヤックのパッキングについてです。
毎年海外への海旅を続けるライフスタイルを楽しんでいる平田航師ならではのパッキング術は、プロガイドとしても勉強になります。


そうして自分のカヤックに荷物を積載して、各自お昼ご飯を済ませ、いよいよ海へと移動します。

須原海岸は穏やかでした。
午前中よりもにわかに雲が多くなってきていましたが、強い風も吹いていません。
ですが大型の台風が接近してきているという不穏な気配は濃厚に漂い、うねりも少しありました。

浜辺ではナビゲーションについての講義があります。
離陸(出艇のことですが、陸を離れて海へ漕ぎ出すので離陸と表現します)する前に自分のいる位置、そしてこれから行こうとしている場所、そこへ至るための方法、視点について語られます。


そして離陸。
と、雨が降ってきました。


雨はすぐ止むかと思いましたがなかなか止まず、けっきょく海上ではずっと降られてしまいました。
ですが雨の海の美しさは例えようもなく、不穏な空気を漂わせながらもそこに内包された優しさも感じられたのでした。

湯浅湾の景観も素晴らしいです。


こんな洞窟があったり、アーチがあったりします。
太平洋と瀬戸内の海が出会う場所。
その厳しさと複雑さが湯浅の海の多様性を創り上げているように感じます。

予定を変更してとある浜に着陸。
多少うねりがあり波が立っていたので慎重に上陸します。
重積載したカヤックで着陸に失敗するとカヤックを壊す可能性もあり、また、怪我をしてしまうこともあります。

浜に上がっても雨は降ったり止んだり。
というわけでタープを張ります。
そこにみんなで車座になって座りレジュメを広げればタープの下が教室に早変わりします。
潮騒と海風を感じ、木々のざわめきと雨音と、、、。
この学ぶ環境こそが海旅塾の醍醐味のひとつでもあります。


初日の講義終了後、みんなで流木を集め焚火を熾しました。
雨で湿気た流木でいかに火を熾すか。これも海旅塾で学ぶことです。

晩ご飯は平田航師のお手製ご飯。
一品料理どころかしっかりとお腹も膨れるボリュームのある晩ご飯と、やっと降りやんだ雨、焚火の揺らめく炎、少しずつ大きくなる波の崩れる音を肴に、海旅談義は続くのでした。


後編に続く。

2014年10月1日水曜日

メンテナンス・デイ 2

すっかり秋めいてきた今日この頃。
シーカヤック屋さんは海に出ない日もお仕事が山積しています。
(いよいよ冬を迎えるとそれこそすることすらなくなり、途方に暮れることもありますが・・・)

そんなワケで今日もカヤックのお手入れです。


先日はずしたフットブレイスを別のカヤックに取り付けます。
取り付けるのは初心者スクールや初級ツアーで使用しているポリエチレン製カヤックです。


まずは位置取り。
以前、付いていたフットブレイスとはネジの位置が違うので、あらためて穴を開けなければいけません。
いくつも穴を増やすのもどうかと思い、一つは前の穴をそのまま使うことにしてもう一つだけ開けることにしました。

こうして外側で位置取りをしておきます。


そして穴あけ。
穴あけ作業に使ったのは手でやる穴あけドリルです。
ポリエチレンなら簡単に穴を開けることができます。


穴が開けられたら、今度は使わなくなる穴を塞いでおかないといけません。
そこでシリコン樹脂の登場です。
ほぼ一年ぶりに使おうとしたら案の定、中身が全部固まっていたのでホームセンターで買ってきました。
おそらく今回のシリコンも、全部使い切る前に固まってしまうのかなあ。やれやれ。

シリコン樹脂を充填するときはカヤックの内側にマスキングテープを張っておき、そして外から充填します。
そして仕上げに外側をちょっとだけ盛り付けてあげれば、まあしばらくは十分に防水性を保ってくれます。

穴の充填が終わったらいよいよフットブレイスの取り付けです。


このネジが無くて前回は作業ができませんでした。
ただ後日、人に聞いてみるとどうやらもう一つ径の太いネジをねじ込むようにすると判明。
こんな小さな失敗もいい経験ですね、ということにしておきます。

取り付け自体はすぐにできました。
内側は六角ナットで締めています。
こういう作業は、本当は2人でやったほうが楽なのですが、1人でもできないことはないです。

仕上げに今回取り付けたネジのところにもシリコン樹脂を塗っておきます。
これで少しは防水性が保たれるでしょう。


中はこんな感じです。

ちょっとナットが飛び出していて気になりますが、そもそも膝も届かない足元なので、けっこう気にならないようでした。
もし引っ掛かるようであればナットにカバーなどを被せる必要があるかもしれませんが、しばらくは様子を見てみることにします。


フットブレイスは身体を大きく使って漕ぐためにも、大事なパーツです。
また、カヤックのシートに座って背筋をピンと伸ばしておくのにも、足の踏ん張りがきちんとできるかどうかは重要なポイントとなります。
そのためにはフットブレイスの踏ん張りが効くことはもちろん、位置の調整がしやすいことも重要です。

だからこそレンタルカヤックのフットブレイスは大切だと考えています。
限られた予算の中でできるだけのことはしておきたい、そんな思いをもってメンテナンスをしてるんですよ~。