2013年12月31日火曜日

~一枚の写真から綴る~ 第11次瀬戸内カヤック横断隊 参加報告8

11月21日木曜日。
快晴微風。海況も上々。
朝6時半出艇。
諦めの悪いオトナたちが明日の航程を意識して少しでも小豆島へ近付いておこうと漕ぎ始めた。

この日、リーダーを務めるのは小豆島のドリームアイランドの連河さん。昨夜リーダーを指名されてからのハイテンションのまま船団をぐいぐい引っ張っていく。


潮の動きの小さいうちに鼻栗瀬戸を通過。
しまなみ海道の数か所ある難所のうち、どこを抜けるかが瀬戸内カヤック横断隊の航程の大きなポイントの一つとなる。
転流時間やその後の針路も考慮して決めるが、一つ間違えると次の転流時間まで待たなければならなくなる時もある。実際、転流時間に間に合わず、どうしても漕ぎ上がることもできずに半日待機したこともあるという。

予定通り無事に鼻栗瀬戸を抜けることができた勢いがあったからだろうか、この日は夕方暗くなる前まで漕ぎ続け、60km弱進むことができた。

それだけではなく、久しぶりに穏やかな海を、瀬戸内らしい島並が続く優しい風景の中を漕ぐのがとても楽しい1日だった。
そしてさらに、潮流の顕著なエリアでもあり細かい針路変更やルート取りが要求され、島から島への長い海峡横断もあったりと、漕ぎ応えもある1日だった。

こういう日に限ってデジカメでの写真は少なく、休憩時にフェイスブックにアップした携帯で撮った写真ばかりだったりするものだ。


写真は鼻栗瀬戸に架かる大橋の手前にて。
難所の前でこうして写真を撮る余裕があったことがうれしい1枚である。


航海ログ
11月21日
06:00 ブリーフィング
06:30 大三島南岸 出発
07:30 鼻栗瀬戸 通過
08:00 伯方島北西岸 到着
08:55 岩城島南端 通過
09:30 赤穂根島北岸 到着
10:10 弓削島西岸 通過
10:35 弓削島北西岸の神社 休憩
12:20 横島 横山ビーチ 上陸休憩
13:25 出発
14:30 アブト観音 通過
16:45 走島南東岸 到着 終了

2013年12月27日金曜日

~一枚の写真から綴る~ 第11次瀬戸内カヤック横断隊 参加報告7

11月20日水曜日。
午後4時、NHKラジオ第二放送にチューニングを合わせる。
気象通報を聞き取り、天気図用紙に各地の天気、風向風速、そして気圧を記入していく。


手慣れた調子で次々書き込んでいるのはモンベルに勤める岩野さん。
今年行ってきた知床シーカヤックシンポジウムで新谷さんにお会いして色々と刺激をいただいてきたそうだ。
気象通報から天気図を聞き取り、現実的に実用的に使っているシーカヤックガイドは新谷さんしか僕は知らない。理由は知床半島では携帯電話が使えないからだ。

岩野さんは先日、スマートフォンを辞めていわゆるガラケーに戻してしまった。もちろんガラケーでもネットを介して天気予報も天気図も見ることはできるが電池の消耗が激しい。
横断隊のような7日間漕ぐ旅の場合、電源の予備の確保は重要だ。
しかし岩野さんの場合それが気にならなくなった。ガラケーはたまにオンにするだけ。そして天気予報はラジオから得る。ラジオはすこぶる燃費が良い。
荷物が少なくなった~、と喜んでいた。

僕らはスマホという高度に便利な道具を使い、詳細なデータをネットから得る。
そのために予備の電池をたくさん用意する。僕はソーラーバッテリーチャージャーを前回から持っていくようになった。
便利だ便利だと喜びながら、道具が増えていく。荷物が重くなる。お金も掛かる。

ラジオと天気図用紙とエンピツさえあれば天気図を書き起こし、自分で天気を予測することもできることを忘れていた。お恥ずかしい。
道具はシンプルなほうがいい。
そうすると旅はもっと楽しくなる。
学生時代には当たり前だったことを思い出し、ちょっと懐かしむ。

出来た!と岩野さんが言う。
昼過ぎにスマホで確認した天気図が用紙の上に再現されていた。


大三島南岸のよくお世話になる浜辺で空を見上げる。雲の動きは未だに速い。
午前中の早い時間に岡村島からここまで漕いできたが、その後風が上がり動けなくなってしまい結局停滞となった。

今回の横断隊では天気を読むことがとても重要だったシーンが多かったように思う。
そしてみんなの観天望気にも非常に興味をもったものだ。
湯浅湾アイランドストリーム平田さんが上空の風は数時間後に地上に降りてくるからこの後風向きが変わるかもしれないと言う。
白石島の民宿はらだの原田さんが雲を見詰めてこりゃあ風が上がりよると言う。

天気はネットやラジオから情報を得るだけではなく、現場でもまた得られるものだと改めて思った。
砂を巻き上げて吹き抜けていく西風に吹かれながら、注意深く空を、雲を、海を見詰めた。

残りあと2日間だ。


航海ログ
11月20日
06:30 ブリーフィング
06:50 岡村島南岸 観音崎 出発
08:10 大三島南岸 到着
10:00 ミーティング 待機決定
11:30 再ミーティング 偵察へ
13:30 再々ミーティング 停滞決定

2013年12月21日土曜日

~一枚の写真から綴る~ 第11次瀬戸内カヤック横断隊 参加報告6

11月19日火曜日。
南西の風がやまない。

愛媛県岡村島南岸、観音崎。
早朝から数回ブリーフィングをし、リーダーを中心にどうするかをみんなで話し合う。
そして正午。
リーダーを務める沖縄のバジャウトリップ西表フィールドサービスの赤塚くんから停滞宣言が下された。


7日間で250km以上の航程を漕ぐ瀬戸内カヤック横断隊にとって、丸一日の停滞はゴールまで完漕する可能性を下げてしまう。
それが分かっているから赤塚くんのこの決断はとても重いものだったに違いない。
彼はこの日、いつも海と空を眺め、何度も堤防の先へ足を運んだ。

横断隊の目的は必ず完漕することではない。
完漕はあくまで7日間漕いだ結果としてもたらされるものであり、目的は毎日毎日考え、漕ぎ進むことだ。そう考えると完漕は手段と言えるかもしれない。
それでもこだわってしまうのが男の子というものだ。

最終的に停滞と決めるまで、朝7時のブリーフィングに始まり、9時半、そして12時と計三回全員で集まり話し合った。
朝は野営した浜の裏手にある観音崎へ登り、高台から海を観察もした。
行く手は白波が立ち、来島海峡を抜けてきた大型本船が上下するようなうねりもあった。
浜に戻ると目の前の海岸はサーフが渦巻き、飛沫が頬に当たった。

日が昇り浜にも太陽が照らすようになっても風は落ちない。
潮が満ちてきて、今や波飛沫はカヤックにも掛かりそうだ。
昼まで待機と決まり、僕はパドリングウェアを着替えた。

そして昼。もう30分くらい前からほぼ全員が焚火の前に集まり、最後の一言を待っているといった態だった。
リーダーの停滞宣言は口に出すまでもなくみんなが納得していた。


この昼までの時間のなんと濃密だったことか。
みんながそれぞれに色々なことを考えていたに違いない。
海を見る。
空を見上げる。
波を眺める。
風を感じる。
海図を開く。
スマホで天気予報をチェックし、天気図を読む。

後日、ある人からなんで朝一番に停滞判断をしなかったのか?と問われたが、なるほど、普段カヤックのガイドをしているとその日の予定は朝に決めてしまうものだが、横断隊ではこうして昼まで待機し考え悩みチャンスを待つというのが当たり前なような気がした。


待てば海路の日和あり。
この日はついにその好機は訪れなかったが、それもまた海旅である。
なんとしても事故だけは起こしてはならないという想いもある。

海に出ずとも横断隊で学ぶことは多いのである。


航海ログ
11月19日
6:00 ブリーフィングを7:00に延期すると伝達
7:00 すぐの出発を辞め、全員で観音崎の高台へスカウティング後、さらに待機と決定
9:30 再ブリーフィングで昼まで待機と決定
12:00 再々ブリーフィングで本日の停滞を決断
午後は各自、自由に過ごす。

2013年12月19日木曜日

~一枚の写真から綴る~ 第11次瀬戸内カヤック横断隊 参加報告5

11月18日月曜日。
三日目にして初めて日の出後の出発。
天気予報は下り坂。
午前中の早い時間に下蒲刈島へ渡らないと、身動きが取れなくなる可能性もあった。


当初、安全策として倉橋島の東岸沿いに北へ漕ぎ上がり、情島へ渡ってから様子を見て海峡横断をする作戦だった。
が、海況は思った以上に良く、目指す下蒲刈島もその先の上蒲刈島もすぐ近くのように見えていた。
その日のリーダーはその誘惑に魅かれ、補佐をしていた僕はそれでも頑なに最短距離での海峡横断をすべきだと考えていたその時、後列から村上隊長が、
「今のうちに渡っちゃおうよ」
と声が掛かった。

リーダーの決断は速く、そしてまた僕の心変わりも素早かった。
隊は一気に海峡横断を開始した。
この判断が功を奏した。

途中から追い風追い潮となりうねりはどんどん大きくなるにしたがい操船に苦心するメンバーもいたが、隊のペースは非常に速く、本格的に風が強くなる前に下蒲刈島南岸の梶ヶ浜に辿りつくことができた。
ここは堤防で囲まれ上陸もしやすく、トイレも水場もあり、この後のルート取りを話し合う十分な余裕もできた。

もし安全策だと思い込んでいた作戦通りに進んでいたら、海峡横断の途中で強風に晒され隊はバラバラにされていたかもしれない。
ふと、来し方を振り返りぞっとする。
今や海峡は白波が立ち、時折強烈なブローが海面を削るように吹き荒んでゆくのが見えた。

海旅では一瞬の判断がその後の航程の明暗を分けることがある。
海峡横断はいつも緊張の連続だ。


この日、さらなる難所が待ち構えていたが、それを全員が乗り切ることができたのはこの朝の海峡横断で消耗しなかったからだと思う。
村上隊長の観天望気に脱帽したのであった。


航海ログ
11月18日
07:00 ブリーフィング
07:20 倉橋島 亀ヶ首南岸 出発
09:00 下蒲刈島南岸 梶ヶ浜 到着
09:40 蒲刈島海峡 通過
11:05 上蒲刈島北東岸 赤石 通過
11:35 豊島 到着
12:20 三角(みかど)島 上陸休憩
13:40 出発
14:25 大崎下島北岸 到着
14:40 岡村島西岸 到着
15:00 岡村島観音崎の浜 上陸 終了

2013年12月9日月曜日

~一枚の写真から綴る~ 第11次瀬戸内カヤック横断隊 参加報告4

11月17日日曜日。
周防大島から海峡横断を繰り返し、倉橋島東岸の亀ヶ首に上陸、行動終了。
上陸してまずすることはカヤックを満潮ラインよりも高い所に運ぶことと、流木を集め焚火を熾すことだ。


焚火番長は愛媛松山のアウトドアショップ、アウトドアーズ・コンパス副店長の楠くん
薪拾い、火点け、そして缶ビールを開けるのは誰よりも早い。
海岸で焚火をすることには賛否あるが、寒い時期のカヤッキングには必須であり、そして僕たちは必要最小限の焚火しかしない。
焚火は暖をとり、料理をし、そしてみんなが集まる場となる。

この日は昼休憩で上陸した鹿老渡島の浜で思わぬ歓待を受けた。ありがたい話だ。
が、ここまでの行程はけして楽なものではなく、風も潮もきつかった。途中雨にも降られた。
そうしてたどり着いたこの浜で、火を囲んで談笑する。
この充足感。

焚火を囲んで毎晩、その日の反省会が行われた。
その日のリーダーはどうだったか。ルートは?明日はどうする?
隊長が翌日のリーダーを指名するのもこの時だ。

そして隊員たちへ意見を求める。
その日感じたことを。これからのことを。
なぜ横断隊に参加したのかを。

瀬戸内カヤック横断隊に「お客さん」はいない。
全員がリーダーとしての意識を持ち、海を読み、ルートを組み、隊のことを考える。
他人任せや他力本願では7日間は漕ぎ切れない。
漕ぐのは自分自身だからだ。
海から学び、賜る。
内田正洋初代隊長曰く、「横断隊はシーカヤックアカデミーの実践版だ」という所以である。

そんな話が焚火を見つめながら毎晩されるのだ。
夜の横断隊は、昼間海を漕いでいる時と同じくらい内容が濃いのである。

この夜も煙にまかれながらも更けていくのであった。


航海ログ
11月17日
06:10 ブリーフィング
06:30 周防大島 片添ヶ浜北側の浜 出発
07:40 片島 通過
08:20 周防大島を離れる
08:55 津和地島 到着
09:35 怒和島水道 通過
10:10 怒和島北岸から鹿島へ横断開始
11:30 鹿老渡島南岸 到着 上陸休憩
地元の方々から歓待を受ける
13:05 出発
14:30 倉橋島 亀ヶ首 上陸 終了

2013年12月7日土曜日

~一枚の写真から綴る~ 第11次瀬戸内カヤック横断隊 参加報告3

11月16日土曜日。
朝4時起床。洗面と簡単な食事を済ませ、身支度を整え波止の東の端の浜へ向かう。
まだ空には星が瞬き、ヘッドライトを灯して狭い路地を抜けていく。

浜にはすでに幾筋ものヘッドライトの光線が交錯し、数名の隊員たちが出艇準備に余念がない。
低い声で挨拶を交わし、ごそごそとパッキングをする。装備のあちこちに付けられたリフレクトテープが光を反射してキラキラし、独特の緊張感が漂う。


午前6時、全体ブリーフィング。
本日のリーダー(先頭を漕ぎ、ルートを決め、隊を先導する役割。日替わりで隊長が指名します)はラフティングNEOのケンちゃんと、補佐として僕が付くことに。
今日の目的地は周防大島南岸を行けるところまで。
まずは祝島の対岸、原発工事が休止している田ノ浦へと海峡横断する。

午前6時25分、出艇。
早朝にも関わらず何人もの島の人たちに見送られ、祝島港を出る頃には東の空は濃い群青色に淡い茜色も射し始めた。

目の前に広がる鼻繰瀬戸と右手に見える鼻繰島。その奥には祝島の人たちが守り続けている田ノ浦が見える。上関町の定期船が汽笛を鳴らすのが聞こえた。
目指す周防大島は東の水平線に霞む。
途中まで伴走してくださる久坊さんの船には原さん他が乗り込みカメラを構える。

7時前、鼻繰島の上方から日が昇る。
長い1日の始まりだった。


航海ログ
11月16日
06:05 全体ブリーフィング
06:25 祝島 出発
07:15 田ノ浦 到着
08:15 蒲井 到着
09:45 上関海峡 通過
10:30 皇座山南麓 到着 上陸休憩
11:45 出発
12:20 周防大島 法師埼 到着
13:45 安下埼 通過
14:30 立島 通過
15:30 沖家室島 通過
16:45 片添ヶ浜の北側の浜 上陸 終了

2013年12月6日金曜日

~一枚の写真から綴る~ 第11次瀬戸内カヤック横断隊 参加報告2

11月15日の金曜日、瀬戸内カヤック横断隊出発の前日。
僕を含め数名が平生町の佐賀の港の端っこから7日分の食糧他装備を満載したカヤックを漕ぎ出しました。


今回のスタート地は山口県東部、柳井市の南に浮かぶ祝島という離島です。
まずはスタート地まで行くにも一苦労するのが横断隊です。
何人かがせっかくだからカヤックを漕いで祝島へ渡ろうと言い、僕もそれに乗っかったわけです。

出発した佐賀の港近くにはダイドック原さんの新居があります。
今回は怪我のため横断隊には参加できなくなった原さんが見送りにきてくれました。

この日は世間様に申し訳ないような上天気。
明日から始まる厳しい旅への期待と不安を胸に、いい大人たちは好き勝手に漕いで行きます。
寄り道。道草。回り道。
目指す祝島は遠くに見えているのでみんなやりたい放題です。
べた凪なので注意すべきは海上交通くらいなもの。それもいよいよ祝島が間近に迫る長島沖を漕ぐ頃には漁船も見当たらず、海はまるで僕らのもののようで、ゆらゆらと自由に進んでいきました。

そんなこんなでたっぷり3時間ほども掛かって祝島に着陸(到着ではなく、あえて着陸と言います)。
日は傾き、少し肌寒くなっていましたが、いつもお世話になっている島の人たちと先行していた仲間たちに迎えられ、気持ちはすぐに暖かくなりました。

夜は島の人たちのご厚意で歓待を受け、さらに僕はちゃっかり薪風呂に浸かり、宴会場を抜け出して親しい知人の家でさらに飲み食いさせていただき、寝たのは午前を回っていました。
祝島はあまりに居心地が良く、心が優しく柔らかくなり、家族のようなおもてなしを受けているとなんだかゴールしたような達成感と安堵感に包まれ、あれ?明日から出発するんだよなあという非現実感を味わってしまうのが困りものです。

宴会の途中、隊長の村上水軍商会の村上さんから明日の出発は6時半と発表。それに先立って全体ブリーフィングは6時集合。この時期、まだ薄暗い時間帯です。

いよいよ、7日間の瀬戸内の旅が始まります。

2013年12月4日水曜日

~一枚の写真から綴る~ 第11次瀬戸内カヤック横断隊 参加報告1

2013年11月16日から22日にかけて行われた第11次瀬戸内カヤック横断隊。
山口県の祝島から香川県の小豆島を目指して、7日間朝から晩まで漕ぐ。
そんな旅をしてきました。


しばらくお休みしてしまっていたブログですが、この瀬戸内カヤック横断隊の報告から再スタートしていきたいと思います。

一日一日を一枚の写真をピックアップして回想しつつ、瀬戸内の海を東へ東へと漕ぎ続けた日々を綴っていきます。

写真は7日目、最終日の朝。
午前3時起床、5時に全体ブリーフィング。そしてまだ暗い6時前に出艇しゴールの小豆島へと漕ぎ出し、やっと日が昇った時の1枚です。

予想以上の風と波。
タイムリミットはあと1日。
ただ漕ぎ、ただ進む。

瀬戸内カヤック横断隊は、そんな海旅を経験できる場です。

次回から数回に分けて報告していきます。